始めようDTM 第22回 これからのDTM 九曜 弘次郎  こんにちは。  さて、長らくお楽しみいただいておりました本連載は、今回を持ちまして休刊することとなりました。  「えっ!!終わっちゃうの?」  そうなんです。  私がこの連載を始めようと思ったきっかけは、自分自身初めの頃、 DTMをやってみたくてももなにを用意すればいいのか、また我々に利用できるソフトにはどのようなものがあるのか分からないといった経験をしたからです。ある程度それを乗り切り、興味が出てくると、ソフトのマニュアルやインターネット上のホームページ、各種書籍などを参考にやってみようという気になるのですが、初めてのうちはなかなかそういうわけにはいきません。  そこで、そういった初心者の方を対照に、何か参考になるものは作れないだろうかということで始めたのが本連載です。しかし、ほぼ初心者向けの内容は終了したのではないかと思われます。  そこで、とりあえず今回を持って休刊と言うことになりました。  最後の今回は、視覚障害者にとってのDTMの今後について考えてみたいと思います。 ======================================================================== 1. 一般的なDTM環境の現状 ========================================================================  今までDTMといえば、パソコンとMIDIに対応した音源を接続して行うというのが一般的でした。しかし、最近のシーケンスソフトの多くはオーディオトラックを搭載しており、歌や生の楽器の音をそのまま取り込めるようになってきました。  また、ヤマハのDTM音源「MU2000」などに見られるように、サンプリング機能を搭載することで、音源自体にも生の音が取り込める機器も発売されてきています。  このようにDTMの世界は、今までのMIDIだけの世界からオーディオ機能を統合した環境に移行しつつあり、その傾向はいっそう強まることでしょう。  また、シンセサイザーも、音質や機能がずいぶん良いものになってきました。しかし、逆に機能が複雑化しており、メニュー構造になっているため、ディスプレイを見ながらでなければ操作しづらく、視覚障害者には利用しにくいものが増えてくるのではないかと懸念されます。 ======================================================================== 2. 視覚障害者におけるDTM環境 ========================================================================  一方視覚障害者の環境ですが、今まで我々に利用できるシーケンスソフトは、本連載でも取り上げました、PC9801シリーズのMS-DOS環境で動作する、レコンポーザ/98が一般的でした。パワーユーザーのなかには、Windows版シーケンスソフトを利用している方もおられますが、けっして使い勝手がいいと言えるものではなく、特に初心者の方には利用しづらいのが現状です。そんな中、我々もWindows環境でシーケンスソフトを利用したいというニーズが高まってきています。  では、その可能性について探ってみたいと思います。  まずは、日本語版スクリーンリーダー「JAWS」開発への期待です。米ヘンタージョイスと、日本アイ・ビー・エム株式会社が共動で、JAWSの日本語対応版の開発をすると発表しました。 http://www.jp.ibm.com/NewsDB.nsf/2000/05221  ご存じの方もおられると思いますが、このJAWS英語版では、専用のスクリプトを用いることにより、Cakewalkの英語版が使用できるようです。  従ってこれの日本語版が開発されれば、同じく日本語版のCakewalkが使えるのではないかと期待されています。  ただ、CakewalkはJAWS単体で使用することができず、スクリプトが必要になります。従って、日本語版に対応したスクリプトの開発が望まれるところです。  またこれとは別に、各社スクリーンリーダーメーカーなどにもシーケンスソフトの利用を求める声が寄せられており、徐々にではありますが動きも見られるようです。  いずれにしましても、これらのソフトウェアが利用できるようになれば、我々もWindows環境でMIDIデータ製作を行ったり、先程述べましたオーディオ機能を利用して、ハードディスクレコーディングを行ったりといったことができるようになるのではないでしょうか。是非上記製品開発の成功を祈りたいところです。 ======================================================================== 3. その他視覚障害者の音楽とパソコンの関わり ========================================================================  さて、上記では主にDTM環境を中心に話を進めてきたわけですが、ここではDTM以外での視覚障害者の音楽とパソコンの関わりについて考えてみたいと思います。  まず、パソコンがもたらす点字楽譜への可能性です。これまで点字楽譜といえば、点字出版社から発売されている点字楽譜を購入するか、必要に応じて点訳ボランティアの方が一般の楽譜を点訳するという方式でした。そんななか、パソコンを利用することでもっと効率よく点字楽譜が作製できないだろうかという動きが見られます。  まずは、本連載でも時々取り上げていましたが、レコンポーザの開発元で知られるカモン・ミュージックが、点字楽譜作成システムの開発を手掛けています。 http://www.comeon.co.jp/cm_world/news/tenji.htm 同ソフトは、レコンポーザに点字楽譜編集機能、及び印刷機能を付加したシステムとなっています。  具体的な特徴を改めて書きますと。 1.「レコンポーザ」で作成された「楽曲データ」を読込み、音高/音長を抽出する。 2.BASEで作成された「点字楽譜ファイル」を読込む。 3.「点字楽譜編集モード」で、点字楽譜としての入力・編集をサポートする。 4.編集した点字楽譜データを、MIDI出力して演奏する。 5.編集された点字楽譜を、点字プリンタで印刷出力する。 6.視覚障害者本人による操作を想定し、音声読上に対応する。 となっています。なお動作環境はNEC PC98x1シリーズのMS-DOSです。既に製品自体は完成しているとのことですので、近いうちに発売されるのではないかと思われます。  続いて同じく点字楽譜作成システムになりますが、マイクロ・シー・エー・デーが「B'Score(びーすこあ)」を開発しました。 http://www.bscore.com/  主な特徴は以下のとおりです。 1. 点字楽譜の文法をチェック(小節、パート、文字目の音符には音列が必要ですなど) 2. 点字を五線譜に表示、演奏(入力確認用、音質は固定) 3. 6点入力も5種類サポート(パーキンス方式、カニタイプ方式、直線カニタイプ方式、右手パーキンス方式、左手パーキンス方式) 4. 点字プリンタ/墨字プリンタ印刷 (点字プリンタはESA721,ET100,Julietで出力可能。ただしCOM接続のみ) 5. 音声出力ソフト(98Readerのみ対応)で操作・入力を音声読み上げ 6. BASE,コータクン,NABCC形式のファイル形式で出力可能。 読み込みはB'Scoreで作成したファイルのみ。  こちらの動作環境は、 Windows95/98/NT4.0で、 価格は定価24,000 (税込み25,200) 円となっていますが、障害者の方は障害者手帳のコピーをFAXすることで半額にしていただけるそうです。  発売は当初7月25日と発表されていましたが延期になったようで、私がこの原稿を書いている時点ではまだ発売されていません。この雑誌が皆様のお手元に届く頃には発売されているものと思われます。  上記二つのソフトは、いずれも点字楽譜の製作を支援するものです。だれかが点訳しなければならないと言うことにはかわりありませんが、点字楽譜の詳細な知識がない方でも点訳可能になるものと思われます。これにより、楽譜がより多くの人によって点訳されるようになるといいですね。 ======================================================================== 4. 終わりに ========================================================================  これでひとまず、本連載は終了です。連載中何人かの方から「パソコンで音楽を作ってみたいと思っていた」というようなメールや、情報ご質問等をいただきました。また今まで私のつたない文章を読んでいた抱いた皆様に感謝申し上げます。  ところで「視覚障害者の音楽活動メーリングリスト」を開設しております。今後もこのメーリングリストを通じて、皆様と音楽に関する情報交換を行いたいと考えています。さきほど3.でご紹介しました点字楽譜作成ソフトの開発メーカーの方々にも参加していただいておりますので、そのへんの情報交換も行えればと考えております。メーリングリストの詳細につきましては、本誌の別のコーナーで紹介させていただいております。また私のホームページ http://member.nifty.ne.jp/KUYO/midi/blmusic.htm にも案内を掲載しておりますので、是非ご参加ください。  では、ごきげんよう。 ======================================================================== E-MAIL:kojiro.kuyo@nifty.com http://member.nifty.ne.jp/KUYO/ ========================================================================